早稲田大学理工学術院の片岡淳准教授と、広島大・東工大・JAXAの研究グループは、米国NASAをはじめとする国際共同研究により、新種の「ガンマ線銀 河」を2つ発見しました。ガンマ線は極端に波長の短い電磁波の一種で、我々の目で見える可視光の約10億倍の高いエネルギーをもちます。このような高エネ ルギーで宇宙を観測することはこれまで困難でしたが、昨年6月に打ち上げられたフェルミガンマ線宇宙望遠鏡の活躍で、激動する宇宙の姿が続々と明らかにな りつつあります。今回の「ガンマ線銀河」も、従来よりも数十倍深い全天探査で初めて見えてきた天体です。われわれの銀河系を含め、多くの銀河中心には太陽 の100万倍を超えるブラックホールが存在すると考えられます。
銀河からのガンマ線は、ブラックホールに落ち込んだ物質が何らかの作用で光速に近い粒子ビームを生成し、そのビームが我々の視線方向を向くという、極めて 稀な状況でのみ観測されると考えられてきました。しかしながら、今回発見された2つの銀河は (1)そもそも強い粒子ビームを持たない(PMN J0948+022)、あるいは(2)ビームが視線方向から大きくずれており(NGC1275)、その意味では「ありふれた」銀河です。とくに、今回初め てガンマ線放射が見つかったNGC1275は非常に明るく、もし同じ明るさを保っていれば、過去のコンプトン衛星(1991-2000年)でも十分検出で きたはずです。これは粒子ビームが10年ほどの時間スケールで新たに生成・消滅することを示唆します。新種のガンマ線銀河の発見によりフェルミガンマ線宇 宙望遠鏡は天文学の新しい窓を開いたと言えるでしょう。
なお、この成果は “NASA'S FERMI Finds Gamma-ray Galaxy Surprises” (NASAのフェルミ衛星による、新種ガンマ線銀河の思いがけない発見)として、NASA ウェブサイトに掲載されています。
◆フェルミガンマ線宇宙望遠鏡日本チーム
| 広島大学 | : | 大杉 節(代表)、深澤 泰司、水野 恒史、片桐 秀明、高橋 弘充、山崎 了 |
| 早稲田大学 | : | 片岡 淳 |
| JAXA/ISAS | : | 高橋 忠幸、尾崎 正伸、佐藤 理江、大野 雅功、田中 康之 |
| 東京工業大学 | : | 河合 誠之、中森 健之 |
| 東京大学 | : | 牧島 一夫 |
| 名古屋大学 | : | 福井 康雄、山本 宏昭 |
◆日本Fermiガンマ線宇宙望遠鏡 web page
http://www-heaf.hepl.hiroshima-u.ac.jp/glast/glast-j.html
◆NASA “Web Feature” 及び関連論文概要
| 参考論文1 | : | Fermi discovery of Gamma-ray Emission from NGC1275 (フェルミ衛星によるNGC1275からのガンマ線放射の発見)
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| 参考論文2 | : | Fermi/LAT discovery of Gamma-ray Emission from a Relativistic Jet in the Narrow-line Quasar PMN J0948+022
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| | 図1: 活動銀河中心核の想像図。巨大ブラックホールに落ち込んだ物質から超高速の粒子ビームが生成され、加速された粒子からガンマ線が放射される |
これまでコンプトン衛星により、数十個の銀河が強いガンマ線を出すことが知られてきました。これらは活動銀河と呼ばれ、中心に太陽の100万倍を 優に超える巨大なブラックホールをもつと考えられています。ブラックホールに落ち込む物質が何らかの作用で光速に近い“粒子ビーム”として噴出し(図 1)、そのビームがちょうど我々の視線方向を向いているとき、放射がドップラー効果により強められて観測されます。このような特異な状況はブレーザー天体 と呼ばれる活動銀河で実際に起こり、ガンマ線を出す銀河は殆ど例外なくブレーザーと信じられてきました。これに対し、セイファート銀河と呼ばれる活動銀河 は、ブラックホール近傍のガスの運動で様々な輝線を出すものの、ビームからの強い放射は観測されません。今回ガンマ線放射が発見されたPMN J0948+022(図2)は六分儀座にあり、距離にして55億光年も離れた遠方の活動銀河(クェーサー)です。スペクトルは典型的なセイファート銀河に 分類され、幅の狭い輝線はブラックホール近傍をガスがゆっくり運動していることを示します。つまり、高速な粒子ビームの存在とは矛盾します。
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| 図2: 活動銀河 PMN J0948+022 (中心)からのガンマ線放射。中心ブラックホールから高速な粒子ビームが放出されている確かな証拠。このクェーサーは55億光年遠方にあり六分儀座に位置する。 | | 図3:フェルミ衛星が初めてとらえた活動銀河 NGC1275からのガンマ線放射(中心)。NGC1275は2.3億光年離れたペルセウス銀河団の中心銀河であるが、コンプトン衛星では検出できなかっ た。フェルミ衛星の観測までの約10年の間に、粒子ビームが著しく増強したと考えられる。 |
しかしながら、PMN J0948は電波で強く、激しい変動を示すことが知られており、天体の根元には強い粒子ビームが隠されていることが示唆されてきました。今回のフェルミ衛 星の発見はガンマ線を出す「隠れた」粒子ビームの存在を明らかにし、様々な活動銀河を統一的に扱う意味でも重要な発見となります。本論文はイタリアチーム が主導し、日本のフェルミ衛星チームもデータ解析で大きな貢献をしています。
フェルミ衛星のさらなる快挙として、NGC1275 からのガンマ線放射の発見が挙げられます。NGC1275 はPMN J0948よりはるかに近傍、2.3億光年はなれたところにあるセイファート銀河で、中心には超巨大ブラックホールがあると考えられています。この天体は 有名なペルセウス銀河団の中心に位置し、電波でもっとも明るく活動性の激しい天体の一つです。電波での活動性は、やはり粒子ビームの存在を示唆しますが、 ビームの方向は我々の視線方向から約40°もずれており、ブレーザーとは全く状況が異なります。さらに興味深いのは、この天体がコンプトン衛星ではまった く検出されなかったにもかかわらず、フェルミ衛星の観測では明るく輝いていたことです。この明るさであれば、コンプトン衛星でも十分検出できたはずで、実 際フェルミ衛星の観測した明るさは、コンプトン衛星の与えた検出上限値の7倍以上にもなります。つまり、二つの観測が行われた約10年の間に、粒子ビーム が新たに生成ないしは大きく増強されたに違いありません。変動の時間スケールから放射領域の大きさを見積もることができます。放射領域の大きさは、すくな くとも3光年より小さくなくてはならず、ガンマ線がブラックホールのごく近傍から選択的に生成・放射されることを、初めて確認できました。フェルミ衛星 チームは、今後もNGC1275のガンマ線強度をモニターし、さらなる変化を追跡する予定です。本論文は日本の早稲田大学・広島大学を中心とするチームが 主導し、データ解析・論文執筆まですべてを一貫して行いました。フェルミ衛星チーム内でも高い評価を得ています。
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